神経因性膀胱
〒284-0001
千葉県四街道市大日371-1
神経因性膀胱
正常な排尿は中枢神経(大脳、脳幹、脊髄)と末梢神経によってコントロールされています(排尿における中枢・末梢神経の役割)。
神経因性膀胱は、中枢神経あるいは末梢神経の様々な病気により、膀胱や尿道の働きが障害され、排尿障害をきたす病気の総称です。原因となり得る病気は、脳血管障害(脳卒中)、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、小脳変性症、脊髄損傷、脊髄髄膜瘤(二分脊椎症)、脊髄係留症候群、椎間板ヘルニア、脊椎管狭窄症、骨盤内手術による膀胱への末梢神経障害など数多くあります(排尿障害の原因となる主な神経疾患)。適切な排尿管理が行われないと腎不全を来す可能性があります。
排尿における中枢・末梢神経の役割
排尿障害の原因となる主な神経疾患
神経因性膀胱の症状は、原因となる神経疾患の部位によって異なります(神経疾患の部位と排尿機能障害の関係)。
仙髄排尿中枢(核)より上位の神経が障害され生じた神経因性膀胱です。膀胱が勝手に収縮してしまう状態になります。一般的には、頻尿、尿意切迫感(急に我慢できないような尿意が起こる)、トイレまで間に合わずに尿が漏れるなどの症状が出現します。
仙髄排尿中枢(核)以下の神経が障害され生じた神経因性膀胱です。膀胱の収縮が障害された状態になります。一般的には、排尿困難(排尿の勢いがない、排尿時にりきむ、尿線が細い、残尿が残るなど)の症状が出現します。
神経疾患の部位と排尿機能障害の関係
問診:下部尿路症状についてだけではなく、症状の原因となり得る神経疾患についてもお聞きします。神経疾患の既往がなくても、排尿症状がきっかけとなり神経疾患が見つかることも少なくありません。
身体診察:神経の病気に関わるような神経症状がないかどうかを診察します。直腸診や陰部、臀部の診察を行うこともあります。
尿流・残尿測定:検査用トイレで実際に排尿していただき尿の勢いを調べる検査(尿流測定)を行います。排尿後には超音波検査で尿の出し残し(残尿)を測定します。
尿検査:尿中の血液や細菌の有無を調べます。
血液検査:腎臓の状態を評価します。50歳以上の男性では前立腺癌を合併することがありますので、前立腺特異抗原(PSA)を測定します。
超音波検査:腎臓の腫れ(水腎症)や前立腺の大きさを評価します。尿路結石の有無を調べることもできます。
腹部X線検査:脊柱や仙骨の異常、尿路結石の有無を調べます。
排尿日誌:尿の回数、1日の尿量、夜間の尿量、膀胱の大きさなどを知ることができます。
膀胱内圧検査、内圧尿流検査:尿道から膀胱に細いカテーテルを挿入し、膀胱内に生理食塩水を注入しながら膀胱内の圧を測り、膀胱の知覚や収縮能力を検査です。尿道を締める筋肉(尿道括約筋)の機能を調べる筋電図検査を同時に行うこともあります。カテーテルや針電極の挿入を伴う少し侵襲的な検査です。
神経因性膀胱の治療で最も重要な点は、腎不全を回避することです。
まず、行動療法(生活指導、膀胱訓練、骨盤底筋運動)や薬物治療(膀胱の緊張を緩和させる抗コリン薬やβ3作動薬)を行います。
これらの治療を行っても、病状が改善しない方には、神経変調療法(磁気刺激療法、仙髄神経電気刺激療法)やボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法などの治療を検討します。
また、膀胱が小さくなってしまった場合には、尿路変向(変更)術(尿管皮膚ろう造設術と回腸導管造設術)などを検討することもあります。
薬物治療(尿道の緊張を緩和させるα1遮断薬やホスホジエステラーゼ5酵素阻害薬、膀胱の収縮を強めるコリンエステラーゼ阻害薬やコリン作動薬)を行うことがありますが、有効性は低く、間歇自己導尿による尿排出が標準的治療となります。下腹部を押したり、叩いたりして行う排尿(クレーデ排尿、反射性排尿)は、膀胱だけでなく、腎臓にも負担をかけ、腎不全に至るリスクがあります。
尿道カテーテル留置は感染リスクが高い処置とされており、4日間以上カテーテルを留置した場合、100%に尿路感染を認めるとの報告があります。また、長期のカテーテル留置は膀胱結石や尿道びらん、尿道皮膚ろう(尿道下裂)などの有害事象が生じることが分かっています。これらの有害事象により、尿路変向(変更)術を余儀なくされることもあります。よって、可能であれば早期に他の排尿管理方法へ移行することが望まれます。
尿道カテーテル留置以外の排尿管理方法として、間歇自己導尿、膀胱瘻などが挙げられますが、現時点においては、間歇自己導尿が最善の方法とされています。
間歇自己導尿は、自分あるいは家族の方が、必要時に尿道からカテーテル(管)を挿入して膀胱内の尿を排出し、尿を出したらカテーテルを抜くという排尿管理方法です。
カテーテルの挿入回数(導尿回数)は、1日の尿量、膀胱容量、残尿量により変わります(医師が指導・管理を行います)。
間歇自己導尿は、患者自身や介助者が比較的容易に行うことができるという利点がありますが、完全な無菌操作を行うことが困難という側面もあります。しかし、非無菌的な操作であっても定期的な導尿により膀胱の過伸展と内圧上昇を予防することで尿路感染症のリスクは低下すると言われています。
導尿で定期的に膀胱を空にし、低圧にすることで腎機能を保護することができます。
”尿を貯めて出す”という膀胱本来の動きを再現できるため、膀胱機能が回復する場合もあります。
カテーテル挿入時に膀胱内に細菌が入り込んでも、一定時間ごとに膀胱を空にすることで細菌は排出されるため、尿路感染症のリスクは低いと言われています。また、結石や尿道の血流障害が生じにくいため、膀胱結石や尿道下裂のリスクが低いと言われています。
尿道カテーテル留置とは異なり、採尿バッグなどにより身体の動きが妨げられないため職場や学校などへの復帰が容易です。旅行にも行けます。
カテーテル挿入時の尿道痛や不快感、カテーテル挿入困難、血尿、尿路感染症などが挙げられます。いずれも開始初期に起こりやすいもので、不安感や不慣れな操作により生じますが、手技に習熟するにつれて頻度は低くなります。継続的な指導と実践、短期間の抗菌薬投与により解決します。導尿手技に習熟すると、予防的抗菌薬投与は不要となります。
間歇的導尿に伴う尿路感染症の発生頻度は、28.4~42.4%との報告もあり、感染対策に留意する必要があります。主な対策は下記の通りです。
1回あたりの蓄尿量は400mL未満が望ましいといわれています。
カテーテルを繰り返し使用する場合、使用毎に洗浄・消毒を行います。また、カテーテルは定期的(およそ1か月毎)に交換する必要があります。使い捨てのカテーテルを使用する場合もあります。
導尿前の十分な手洗い、毎日の入浴により手指や陰部の清潔にします。
尿道粘膜を損傷しないようカテーテル挿入の際、潤滑剤を使用します。
適切に排尿管理を行うためには、定期的な評価が必要となります。定期的な通院をお願いします。また、受診の際、排尿記録(導尿回数、1回の導尿量、1回の自尿量、1日の総尿量などを記載したもの)を持参してください。
経過とともに残尿量(導尿量)が減少し、導尿回数を減らしたり、導尿を中止できたりする場合もありますが、自己判断で導尿を中止しないで下さい。
恥骨上部の下腹部から腹壁から膀胱まで孔あけ、膀胱内にカテーテルを留置し、尿を体外に排出する方法です(膀胱瘻)。尿道狭窄症、尿道結石、前立腺肥大症、前立腺がん、尿道炎、前立腺炎などにより尿道を通してカテーテルを留置するのが困難または不適切な場合や長期のカテーテル留置を必要とする場合に適応となります。
尿道カテーテル留置は、尿路感染や膀胱結石、尿道皮膚ろう(尿道下裂)などの有害事象が生じることが分かっています。また前立腺炎や精巣上体炎を繰り返すことにより前立腺内や陰嚢内に膿瘍を形成することもあります。
女性では、尿道括約筋損傷によるカテーテル周囲の尿漏れを認めることがあります。漏れを減らそうとしてカテーテル径を太くすると、さらに括約筋の損傷が進行するため悪循環に陥り対処が困難になってしまいます。
また、カテーテル交換時には、挿入困難、血尿、尿道損傷などの有害事象が起こりえます。
膀胱瘻造設は、外来で局所麻酔下に超音波や膀胱鏡を用いて安全に行うことができ、負担も少ない処置です。当院では、適応のある患者さんには積極的に膀胱瘻の造設をお勧めしています。
一方で、血液をサラサラにする薬をお飲みの方、造設時に医師の指示に従えない方、処置体位を取ったり保持したりすることができない方、膀胱が十分に膨らまない方は、入院のうえで全身麻酔下に膀胱瘻造設を行う必要がありますので、他の医療機関にご紹介致します。
膀胱瘻